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LCフィルターの設計ツールです。

まずはエクセルに記述したプログラムをダウンロードしてください。New_Generalized_LC_Filter_Design (クリックしてダウンロード)
一部ですがこのような画面が現れます。

エクセルを起動すると概ね左上の角に数値の入力セルがあります。間違って入力をしたりするとプログラム自体が壊れますので
必要な項目以外はロックがかかっています。セルに色の付いた入力項目のみ希望する数値を入力ください。
上のエクセル画面の最下部をご覧になると、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタを始め8枚のsheetがあるのが分かると思います。
短波帯で使用するフィルターの設計はこのエクセル上のソフト一枚でほぼ達成できると思います。
ローパスは矩形波をサイン派になおすとき、ハイパスは近隣に中波帯の強力な放送局があってトップのRFアンプが
サチレーションするようなときに、バンドパスフィルタは言うまでもなく自作の送受信機の製作時には必須の設計項目です。
ローパスやハイパスは具体例をあげるまでもなく必要な遮断周波数と回路インピーダンスを入力するだけで結果はでます。
バンドパスフィルターはインピーダンス整合がきちんとしていないと本来出るべき結果とはかなり異なるデータに悩まされます。
いずれにせよ高周波領域のフィルター製作には細心の注意が必要です。BPFにはいろいろな方法があるので少し具体例を示します。

形式の異なるバンドパスフィルタ

形式の異なる3次のバンドパスを3種類表示しました。全てバターワース型の正規化データを使いましたが、それぞれ、
容量結合型BPF、ジャイレータ変換によりT型を直列共振型にして L の値を同一にしたBPF、一番下は通常の教科書的なBPFです。

シミュレーションの結果ですが、
全てのデバイスは理想的な状態(31.8uHコイルのシリーズ抵抗は1mΩ)として、理論上のLTspiceの結果を見ると下の状態です。

色あいの変化が少なく、少し分かりにくいですが、緑が容量結合型BPF、赤が通常の教科書的π型のBPF、
黄色はジャイレータ変換したBPFです。
面白いことに教科書的なπ型(並列共振-直列共振-並列共振の組み合わせ)が左右にバランスよく減衰していますが
容量結合型はパスバンドから周波数の高い方では減衰曲線が甘く、左肩上りの曲線になっています。
つまり、パスバンドより高い方の周波数では切れが悪いです。
逆にジャイレータ変換したものでは周波数の高い方がよく減衰し、低い方は甘いです。所謂左肩下がりのグラフです。
この結果からパスバンド領域から上のの高調波を少しでも抑えたいという目的にはジャイレータ変換BPFフィルタがお勧めです。
同じことですがチェビシェフ型も同様な結果をもたらします。下は全て Chebyshev 0.2dB で各BPFを比較してみました。

Butterworth型に比べ、減衰が急峻になった以外は傾向は同じです。やはり緑の容量結合型が左肩上がりで高い周波数に甘く、
黄色のジャイレータ変換型が左肩下がりで、パスバンドより高い周波数には減衰性能よく、低い周波数には甘く、上記と同じ傾向です。
3dB付近の切れはさすがにChebyshevでするどいです。

Norton変換

上で述べたように通常型のBPFでは減衰曲線は横軸の周波数線上では左右対称的な理想的周波数特性を示しますが
使用するコイルのインダクタンスの差異が大きく出ます。片や空芯コイル、他方はフェライトコアに多数巻、などという好ましくない状況
が生まれます。またQを均一にする観点からもそのままの教科書的なデータでは非現実的です。
しかしこ通常型のBPFからのデータをノートン変換することにより、Lの値を低くしてQを大きくすることも、また一つのLの値に
統一することも出きて大変便利です。
下の表は通常型のBPFをノートン変換したもので右はその結果です。結果は2種類のフィルターともデータが
重なるので全く同じグラフになります。ジャイレータ変換のような微妙なのデータの変化はありません。

   

下はよくある現象で、通常型の直列共振回路のL(図中のL8=31.8uH)のQを下げるとどうなるかというグラフです。
極端な事例かも知れませんが、通過帯域データが悪化している曲線がQを下げたLを使用した通常型のBPFです。
コイルのインダクタンスがあまり大きくならず、ある程度の高Qを確保できるもの、また同じ値のコイルを使えるなどの要求に答える
ノートン変換したBPFが現実的だと思います。なお、エクセルシートで5次、7次のものもノートン変換しようと考えましたが
パーツの数が極端に多くなり現実的ではないと考え今回は割愛しました。

   

容量結合型バンドパスフィルタ

HF帯においては数uH程度の比較的値の大きなインダクターを扱うBPFです。バターワース型は偶数次も入出力の
インピーダンスは変わりませんが、チェビシェフ型は偶数次では入出力のインピーダンスが異なります。
エクセルシートではChebyshevの場合は奇数次のフィルターのみ記述しています。2次や4次の偶数次のフィルターが必要な場合は
バターワースをえらんでください。下に容量結合型BPFの 4次 Butterworth と 5次 0.2dB Chebyshev の比較のデータを示します。

急峻な方が 0.2dB の5次フィルター、緑のやや切れの悪い方が4次のフィルターです。容量結合型のフィルターでは
コイルを一つ増やすのはそれほど困難なことではないのでスペースなど許せば5次や7次の Chebyshev型にしては
と思います。フィルターの次数に関わらず、全て同じ値のコイルが使えることが容量結合型の強みです。

実用的フィルター設計

実現可能なフィルターの実例です。極端に値の異なるコイルを扱うのは現実的ではありません。やはり同一
のコイルを使って、違っても一つくらいの同程度の数値のインダクターのコイルを使うやり方がアマチュア的です。
上から容量結合型BPF、ジャイレータ変換型BPF、ノートン変換型BPFの三種類です。手持ちのパーツに従い
これらいずれかの選択をするのがいいでしょう。
Gyrator変換型が比較的大きなインダクターが使えること、容量結合型やNorton変換型はLの値が小さいことなどを頭に
入れておけば設計の判断に役立つと思います。ダウンロードしたエクセルで確かめてください。

結果は次のようになりますが、曲線の傾向は同じです。教科書的な通常のBPFをノートン変換しても
そのフィルターの機能は全く変わらないのは驚きです。
みどりは容量結合型、赤がノートン変換型、黄色はジャイレータ変換型です。全てバタワースです。

目的とする周波数やバンド幅、回路インピーダンスを加味しながらエクセルシートを参考に回路設計に役立ててください。

C分割によるインピーダンス変換

ローパスやBPFの設計において、その本体だけでインピーダンスが目的に合致すればいいのですがどうしても合わない場合は
3.5MHz&7MHzの項目や455のフィルターの項目でで記述しているように、共振回路に影響を与えない二次側コイルを利用して
イミタンスチャートで LC のL型、逆L型、またはπ(パイ)型を入出力に付加して整合させる方法があります。
スミスチャートもイミタンスチャートも苦手な方には、簡単にCを分割してインピーダンスを下げる方法があります。
エクセルシートの本文中にその項目がありますので、必要な場合はそれで最終設計してください。以下LTspiceでの実例です。
左の回路図のようにインピーダンス500Ω、3次の通常型BPFの出力側にC分割を施して50Ωで出力するフィルターです。
右図の周波数特性のグラフは、緑の最上段の曲線は入出力500Ωで受けたデータ、その下の黄色はC分割して50Ωで
出力した特性です。電圧は約10dB減衰しています。
さらに、その下にある2つの曲線は出力の抵抗Rに流れている電流を示しています。上の青はC分割をして50Ωで出力している特性、
その下の赤は入出力を500Ωで揃えた特性です。結果、50Ω抵抗に流れている電流は500Ω系に比べて10dB増えています。
電力は電圧×電流ですから、どちらの回路を選択しても電力伝送は同じであると言うことになります。

   

3次のバターワースBPFを500Ωインピーダンスで設計してみました。上で説明したように
電力がロスするデバイスは何もありませんのでC分割しても高周波電力はちゃんと50Ωの出力に橋渡しされているということになります。
なお、入力側でもこのC分割の手法は使えますので、必要なら入出力の両側でC分割回路を設計することも可能です。

バンドパスフィルターを実際につくってみる。

理論の話ばかりと、シミュレーション上のデータばかりお見せしても現実感に乏しく、やってみようと言う気にならないのは当然です。
私は既に SDR-3 に使用する3.5MHz帯用バンドパスフィルターは本項目中にあるGyrator型の3次BPF(バンドパスフィルター)を
作成して使用していますが、改めて理論と実際が合致するかテストを兼ねて確認のため、中心周波数が3.65MHz と 7.1MHz のものを
作ってみました。下の写真がそれです。10uHのマイクロインダクターと適当なセラミックコンデンサの組み合わせで出来上がります。
マイクロインダクターは全て同じものを使用している点にご注目ください。いずれも作りっぱなし、「C」 の追加や撤去もなく、2時間ほどの
作業、一発で初期目的のデータが得られました。

下にこのセットのバンドパス特性を表わすスペアナ写真と、3.65MHz & 7.1MHz の回路図面を示しします。
設計は両者とも 0.01dB リプルのチェビシェフ型です。インピーダンス50Ω、バンド幅は 0.938MHz (約 1 MHz) です。
スペアナの横実一つが 1MHz ですからパスバンドはほぼ理論通り 1MHz になっています。左側の写真、左端にするどい山が出ているのは
ゼロスペクトルで、異常ではありません。アドバンティストの TR4171 のトラッキングジェネレータから出力し 50Ω-50Ωで測定しました。

   
   

それぞれの回路図面の上側には小数点以下も表示されている理論値が示されています。
実際にはその値に近づくように各ポイントのコンデンサーの値に対して、C をパラ接続(稀にはシリーズ接続)して近似値を探します。
通常販売されている値のコンデンサーで何とかなるものです。今回の実験では 3.65MHz、7.1MHzのBPF を回路図の下方の回路で
実現しています。トリマーコンデンサーも要らないし、 FCZコイルのようなコアー入り IFTも不要 、トロイダルコアーに手巻きする
面倒も要りません。さらに、バンド幅 1MHz (0.936MHz) が同じ値なら 3.6MHz帯でも 7MHz帯でも同じ 10uH のインダクターが
使えることです。14MHzに行っても同じ事です。コイルは全て同じものが使える。無精者には持ってい来いの方法では?(笑)。

エクセルの表を見ても何のことか良く分からない。何処をどう入力すればローパスやハイパス、ひいてはBPFを設計出来るのか?
エクセルが苦手な御仁に今回の実験の手順を示します。
このBPFデータにどのようにしてたどり着いたか? ダウンロードされたエクセルファイルを開けると「このファイルを信頼して
編集できるようにしますか?」などの警告が出る場合がありますが、問題ないので入力可能にしてください。
一番下の欄にローパス、ハイパス、に続いてBPFの設計表がバターワース型から始まりジャイレータ変換まで6種類出ていると
思います。ローパスもハイパスも十分実用になりますので、BPFに限らず必要な折にはお使いください。
さて、BPFに関しては前項などで述べてきたように同じコイルを使え、比較的インダクタンスの大きなコイルを使えるるジャイレータ
変換型が、IFアンプ部周辺、ミクサー後、などの中間増幅周辺には一番向いているのではないかと思います。
インダクタンスの小さなノートン変換型や容量結合型は、空芯コイルなどを使った電力の大きなパワーラインを扱うバンドパス
フィルターに向いているでしょう。まあ人それぞれなので、お好きなように!
また、バンド幅 0.938MHz のような半端な数値を指定しているのは手持ちの10uHのマイクロインダクターに合わせる為、でした。
3dB バンド幅 「1 MHz」付近をいろいろ探してみた結果です。昨年アップロードしたエクセルファイルの入力セルが左上の隅にあり
5次のBPFなどを設計する場合は入力して結果をいちいちスクロールダウンして確認しないと見えなかったのですが
新しいファイルでは下の写真のように、3次と5次の間に入力セルを移動して全体が見渡せる位置に直しました。

下は 7.1MHz のデータを算出したエクセルの票の一部です。ジャイレータ変換に限らず、ノートン変換、容量結合型などいろいろ
試して各自に合ったBPFを探してみてください。入力してはいけないセルは全てロックが掛かっていますので壊れる心配はありません。
但し、入力可能なセルに数値以外を入れるとエクセルが暴走するかも知れません。

コンデンサーもコイルも近似値のものですのでアバウトの数値で実現しましたが、狭帯域のバンドパスは難しいでしょう。
500KHz 幅くらいが限界かと考えますが、この辺りの狭い帯域のBPFを組み上げるには直列共振部分のCはトリマーコンデンサーにして
微調する必要があるでしょう。
アバウトでやるのは1〜3 MHzくらいのバンド幅が適当かと思います。以上、非常に簡単にBPFが作れる3次の項目をご活用ください。

5次バンドパスフィルタの製作

さて、3次のものは簡単に済みましたが5次以上のやや急峻なBPFを作ろうとするとアバウトのやりっぱなしなはNGとなります。
以下に3.6MHzと7.1MHzの5次チェビシェフ型のBPFを実際に作成してみました。この場合はトリマーコンデンサーは必需品です。

回路設計は3次と同じくエクセルファイルからデータを得ました。表示したのは中心周波数:7.1MHz バンド幅:0.93MHz
インピーダンス50Ω設定です。前の項目でも記述しましたが、バンド幅の中途半端な設定数値はコイルを10uHになるように値を探した
結果です。バンド幅は多少の大小はゆるされます。ここに無い3.6MHzのデータはエクセルファイルをダウンロードして表示させてください。

3次の項目と同じように、回路図面とスペアナデータです。横軸は10MHz幅で、3次のものと比べると大変切れが良くなっています。
3.6MHzは幅 0.62MHz 7.1MHzは幅 0.93MHz です。小数点の数値ですが、帯域は 600KHz幅、1MHz幅 と読み替えてください。

   
   

5次になる3次と比較してもかなりシャープな特性になります。5次を製作する場合のバンド幅の取り方ですが、
中心周波数の15%から20%くらいが適当かと思います。3.6MHzセンターなら0.54MHz〜0.72MHz程度、7.1MHzセンターなら
1.06MHz〜1.42MHzくらいです。10%くらいの狭帯域にするとコイルのQは大きいものが必要になり、調整も大変になります。
いずれにしても調整にはトラッキングジェネレータを装備したスペアナが必要でしょう。画面を見ながら微調しないと無手勝流では
うまく行きません。きっちりと作ればミクサー後の局発信号やイメージ信号の除去には大変有用かと思います。

オペアンプを使って実用的な 5次BPF に仕上げる

前項の5次BPFはそれなりに実験ボード上ではきれいな特性を示します。しかし回路インピーダンス50Ωで設計したはいいが
インピーダンス不明な(50Ωでない)回路に挿入するとスペアナで見ていた綺麗な特性とはかなり異なる結果が出がちです。
オペアンプを使って入出力のインピーダンスを固定してやると、どのような回路に入れようと特性が乱れることはありません。
455フィルターのところで述べたように効果は抜群です。フィルターの前後にバッファーアンプを入れてフィルターを50Ω系で
独立させてやることです。フィルターの前後の守りをしっかりしておけばフィルター特性が暴れることはないです。
手元のテストでしっかりBPF特性を合わせておけば実際に挿入したい回路に入れても特性の変化はありません。無調整は楽です。
左が実際の組み立てた基板です。前項の5次BPF基板に追加してリレーとオペアンプ(LM7171)が乗っています。
リレーは3.6MHz帯と7.1MHz帯の切り替えに使います。やはりダイオードSWより「リレー」の方が isolation はよろしいです。
回路図面は右側の窓をクリックして拡大してご覧ください。余談ですが、自作のPSNタイプの送信機に使ったところゲインが
あり過ぎて10dBのATTを挿入するはめになりました。このBPFのあとは私の場合、モトローラ社の「CA2832C」AMPが続きます。

   

スペアナでのBPF特性です。スパン10MHzと1MHzを表示します。トラッキングジェネレータの出力設定、スペアナの50Ω入力の
レファレンスレベル設定などの計測条件は前項と同じです。挿入損失が大変少なくなっているのが分かります。
オペアンプは+INで入力し、-INはOUTと1KΩ、1KΩの関係ででフィードバックが掛かっているので増幅率は1+1=2倍、
入出力に各1個あるので合計4倍(12dB)の増幅率です。ゲインが大きすぎればBPFの前後に3〜6dB程度の適当なATTを
入れれば整合状態も改善されます。1MHzにスパンを拡大したグラフを見ると、通過帯域内のリップルも少なく設計通りの
特性になっています。こういうやり方は大きな電力を扱わない younger stage ならではの特権です。

   
   

机上でテストしたときは綺麗なバンドパス特性を得ながら実際にセットに設置したら期待外れだったという経験はないですか?
最近はかなりの高い周波数まで扱える高速オペアンプが簡単に手に入るようになりました。オペアンプを使えばひずみの心配もなく
調整も手元で終了出来る、このような製作スタイルは楽でいいものです。
高速オペアンプのお陰で、1V以下の低電圧、低電力を扱う場合はイミタンスチャートを駆使してインピーダンス整合を取るのは過去
の遺物となってしまったのかも知れません。しかし、100Wなどの大電力の伝送にはイミタンスチャートを利用した整合回路は
まだまだ有効です。

nanoVNAを使用してバンドパス特性を表示させる。

最後に TR4171 のデータだけでなく、最近流行の「nanoVNA」を使って3.6MHz帯のバンドパス特性を示しました。
最初はVNA本体の画面で、色々なデータが見て取れますが水色のラインがバンドパス曲線です。nanoVNA本体でも各種の
データが見られますが「nanoVNA-saver」を利用すればパソコンでさらに詳しい解析が可能です。

以下に表示してあるのは3.6MHzセンターのバンドパスフィルター、2MHz幅と1MHz幅のものです。
赤のマーカーはセンターを示す3.65MHz、バンドエッジは緑と青のカーソルで表示しています。S21の伝達係数(通過損失)を見ています。
下の「S21 Gain」がBPF特性です。群遅延(group delay)や位相のグラフも表示していますが音質には影響しないので参考程度です。
この回路はLCフィルターの入り口と出口にオペアンプによるバッファーが挿入してあるので中身のインピーダンス計測は出来ません。
スミスチャートの表示も無意味となり、有用な事項は
通過特性のゲインのみとなります。次項に出てくる3次のLCバンドパスフィルターではバッファーアンプが入っていないので
中身のインピーダンス状態も見られnanoVNAによる解析には好都合です。


自作ジェネレーターに収まった3.6MHz帯と7.1MHz帯のバンドパスフィルターです。周波数帯3.6と7.1はリレーで切り替えています。

50Ω系バンドパスフィルター

以前設計した、3次ジャイレータ型のバンドパスフィルター、この項目で一番最初に作成したフィルターですが、
スミスチャートを含めた表示方法を試してみました。

左のフィルターです。
現用セットにも入らずパーツボックスに放置してあったのでこれ幸いと
解析の対象になりました。下のnanoVNAのグラフ、上段左はスミスチャートで
3.6MHz をセンターにして上下 3MHz の範囲をスキャンしています。
緑のカーソルの 2.1MHz の位置からから青色のカーソル 5MHz まで
時計周り(clockwise)に -j パート、+j パートを経由して到達します。
途中、合計3点で実数軸を横切っています。
目的とする 3.6MHz では -j から +j に上向きに横切っていますのでここでは
直列共振点になっています。正確には赤いカーソルの数値を表示したコラムから
F=3.68918MHz ここでのインピーダンスは「 55-j534mΩ」になっています。
元々50Ωインピーダンスで設計しているので、容量性の虚数はほぼ無視できる数値かと勝手に解釈して、LもCもその辺の物を
流用しているのでリアクタンス(抵抗値)55Ωという値はまあ許せる範囲かなと考えています。

Q

スミスチャートの右側は「S11 R+jX」のグラフですが虚数値を示す黄色の曲線が 3.6MHz で +34.5 と -34.5 の中間点にあり値
はゼロであることが分かります(共振ポイント)。実数軸上にあり、純抵抗成分のみになっていると言う証明です。
その他のデータ、位相曲線、VSWR曲線、「S21 Gain(dB)」の バンドパス特性などは見れば分かると思います。バンドパス特性は
一見いいように見えますが、5次のものに比べてパスバンド外の減衰が緩やかでなまっています。比較してみてください。

50Ω系以外のフィルターのバンドパス特性をnanoVNAで測定する

nanoVNAでフィルターの特性を計測する場合、50Ω系であればそのまま入出力にプローブを当ててVNAをランすればいい話ですが
HF帯SSBで使用するフィルターは数KΩ程度の特性のものが多く、50Ωを基準と考える高周波の世界では少し異質の存在です。
nanoVNAを手にしたついでに昔のセラミックフィルターの特性を測ってみることにしました。

     

左が懐かしい村田製作所の455KHzセラミックフィルター、真ん中はこのセラミックフィルターのデータ表、右に今からやろうとする
インピーダンス変換の回路を表示しています。まずデータからこのフィルターの入出力インピーダンスは2000Ωに設定されている
ことが分かります。右の回路のLとCでこの2KΩインピーダンスを50Ωに変換するわけですが、まず何も付けない回路図面の
上の状態で、センター455KHz 幅 10KHzでnanoVNAを走らせてみます。言わば「生」の50Ω系データ、それが次のグラフ。

スミスチャートでは右端の無限大(∞)に近い位置にとぐろを巻いているように表示されています。メーカーが2KΩの
入出力インピーダンスと指定している訳で、当然真ん中の50Ωよりは右半球のインピーダンスが高い領域に集中する
結果は当然といえば当然。また、
「S21 Gain(dB)」のグラフもリプル多く哀れな姿、「S11 VSWR」の姿は見るに忍ばずの特性です。
トップの個別メニューの22番、455KHzフィルターの入出力インピーダンスの項目でも述べたようにフィルターの特性をリプルをなくし
綺麗にするにはインピーダンス整合が必然の要求ごとです。
他の箇所でも述べていますが、高周波回路においてインピーダンス整合が必要な部位はフィルターまわりとパワーアンプ部分です。
終段からアンテナへのインピーダンス整合ばかりが注目されていますがフィルターまわりも注意が必要です。
さて、上の回路図にあったC&Lの整合器を経由してnanoVNAを走らせたデータが次の通りです。50Ωセンターのスミスチャートにも
姿が現れるようになっています。455KHzを示す赤いカーソルも実数軸の50Ω近くに位置し、曲線が下から上へ実数軸を横切って
いるので直列共振点となります。

VSWRの形もバンドパス特性も一応まとまな姿になっています。中央のコラム、455KHzにおいてインピーダンスが
「50.3 - j 5.76」はそれなりに納得の数値です。S11 |Z| のグラフも455KHzで谷底になっていて直列共振を示しています。

スミスチャート」を利用してインピーダンス変換をおこない、 1100pF と 110uH の値を得た方法を説明します。
webよりダウンロードしているチャートは「Smith v3.10」です。
スミスチャートのメニューの内、Keyboard をクリックして各項目 re に 2000 を im に 0 、frequency に 455KHz を入力すると
最初の点「DP1」の四角のマーカーがチャートの右隅に表示されます。次に7番目のパラレルに入るコンデンサーをクリックして
50と書いた円(50オームの定抵抗円)に到達するまでドラッグして離します(TP2)。これで1.1nFのCが並列に入りました。
次に50の実数を目指して左から2番目のシリーズLをクリックして続きを実数ライン(水平のライン)まで伸ばします(TP3)。
これでほぼチャートのど真ん中50Ωの純抵抗位置に到達しました。
今回は -j パートのみを経由して50Ωに整合しましたが、上に向かって +j パートを経由して50Ωを目指すことも出来ます。
先にインダクターを付けて後でキャパシターを付ける方法です。455KHzフィルターの項目でも述べましたがCをアースに
落とす方がパスコンの作用が現れノイズにも回り込みにも強くなります。
最良の方法はπ型にしてインピーダンス変換することです。それもまたこのスミスチャートを利用すれば簡単に各定数が求まり、
結果安定な回路になります。
以上、2KΩ系のフィルターをインピーダンス整合して50Ω系に整合する過程を示しました。右上の欄に実体配線図が表示
されているので分かり易く、このままLやCを値の近い物に設定すればOKです。

HF帯で送受信機を製作している場合、数KΩインピーダンスのフィルターをわざわざ50Ωに変換する必要もなくトランジスター
あるいはOPEアンプで 2KΩに整合して入出力を管理してやればそれで目的達成で、敢えてスミスチャートを使って整合を取る
必要も無くなります。整合さえ取れればリプルの少ない綺麗な特性のフィルターができる筈です。
今回は敢えて、nanoVNAのテストを兼ねて50Ωに整合させた訳です。このセラミックフィルターにしてみれば
「誰が50Ω系でやれと言った?LやCを加えて無理矢理50Ωに適合させるなんて余計な”テンゴウ”するな!」(関西しか通じない??)
などと怒っているかも知れません。インピーダンス整合が合っていなければどれだけひどいフィルターになるかを示したかったことが
第一の、50Ω系nanoVNAをバンドパスの表示の例に使いたかったことが第二の、それがここで話題に取り上げた理由です。
50オーム系という意味では本項目「LCフィルターの設計」前半で述べてきたような50Ω系のジャイレータ型
バンドパスフィルターなどでは鼻から50Ω系と決めているのでnanoVNAがすぐにでも役立つ素晴らしい計測器になると思います。

nanoVNA を使ってフィルター特性を測る2例 (TRIO 8.83MHz)

バンドパス特性を測る例題を二つ供覧いたします。今頃は無線機器もパワーアンプ部分を除いて全てデジタルで処理する時代です。
今更ハイフレのフィルターをどうのこうのする事は無意味になりつつありますが、年季の入ったOMの元には今でもこのタイプの
フィルターがジャンクボックスに眠っているかも知れません。50Ω系にインピーダンス変換をしてnanoVNAで計測してみましたので
ご覧下さい。左の写真を懐かしむOMはフィルタータイプのSSBをご存じでしょう。30年〜40年前には話題の中心でした。
既にインピーダンス変換を済ませた回路、LとCが入出力に挿入されています。右がその回路です。

   

トリオのこのフィルターのインピーダンスはある情報によると 470Ω とか言うことでした。私もフィルターの入力に1KΩVRをシリーズに
繋ぎシグナルジェネレーターからの 8.83MHz 出力がフィルター入り口で半分の電圧になる抵抗値を測定してみましたが
約500Ωでしたのでこのまま 470Ωということで 470→50Ωの変換をスミスチャートで実行します。
上の項目でπ型が回路安定の点でいいと述べた手前その形にせざるを得ず回路図面のごとくなりました。
前例と同じように Keyboard より470Ωを入力し、DP1 → TP2 → TP3 → TP4 と実数軸の50Ωを目指します(ど真ん中)。
LやCの値はこのソフトが右の欄で与えてくれます。

さて結果ですが先に何のインピーダンス変換もしていない、生のデータを表示し、次にπ型の変換器を通ったデータを表示します。
下はAM用のフィルター(生データ)です。ここではSpanを20KHz取っています。

整合後のAM用データ。Spanを15KHzにしています。特に意味はなく、私がボーとしていて20Kとしなかった結果です。

帯域幅の狭いSSB用フィルター(生データ)。「S11 VSWR」 も 「S21 Gain(dB)」いただけません。SPAN=20KHzになっています。

整合後のSSB用フィルターの特性。整合したと言っても「L」や「C」はその辺の半端物を使っているので理論通りの結果より
少し悪化しています。もう少しきちんとした特性にしたければ「C」の部分をトリマーコンデンサーにして微調整する必要があります。
前項の455KHzでいろいろ述べましたので、ここでは要らないテニオハの講釈は省きます。またSPAN=10KHzです。半田付けしている
間に、前は20KHzでスイープしていた事を忘れた結果です。深い意味はありません。割り引いてグラフ参照願います。

ここまで
Smith Chart を利用して L と C によるインピーダンス変換を行いましたが他の方法、OPEアンプによるバッファー設置
トロイダルコイルによる トランス変換のインピーダンス整合の例です。TRIOの8.83MHzのフィルターに左写真のように回路を
構成しました。真ん中がその回路図面。右は一例としてOPEアンプを使用してインピーダンス変換をした結果のグラフで
nanoVNA本体で示しました。水色の曲線がバンドパス特性です。
以降はパソコン(nanoVNA-saver)による画面になります。

     

OPEアンプバッファーによる変換。SSBフィルターの場合。Span=10KHz。

OPEアンプバッファーによる変換。AMフィルターの場合。Span=20KHz。やはりバッファーアンプが挿入されているため
「S21 Gain(dB)」くらいしかデータ解析出来ません。
その代わりインピーダンス不明の何処の回路に持って行ってもフィルターの特性は変わりません。

クワッドファイラーに巻いたトランスによる変換。SSBフィルター、Span=10KHz。トランスの巻き数が 1 : 3 に
なっているのでインピーダンスの変化は 1 : 9 になり、50Ω×9 = 450Ωになります。この辺の値がほぼこのフィルターの
入出力インピーダンスになります。バッファーアンプを経由していないので Smith Chart のデータも意味を持つようになります。

FB801に quadfilar に巻いたトランスによる変換。AM用フィルター、Span=20KHz。トランスの巻き数は上と同じ。

50Ωに整合させたフィルターの特性を見てきましたが、現実には50Ω系ではない younger stage で使用することになり、
結果、TRやFETで構成された中間アンプではフィルター前後の入出力インピーダンスが何Ωになっているか不明なことが多く
「えいやー!」でいい加減な定数を設定すると綺麗なフィルター特性は得られません。
455KHzフィルターの項目でも述べていますが、バッファーアンプを入れれば所謂「前門の虎後門の狼」よろしく
フィルター特性はスタンドアローン(stand alone)になり、前後のインピーダンスは無関係になります。
インピーダンス整合に自信が無ければバッファーアンプの挿入をお勧めしますが、フィルター挿入前後のインピーダンスが
はっきり分かっている場合はトランスによる変換がシンプルで費用も掛からずベストでしょう。巻き数比が上手く合えばの話ですが、、。

以上ですが、
nanoVNAは本体1万円もしないお手軽な製品ですがアンテナのインピーダンス解析から高周波のフィルター特性まで測られ、優れた
ツールです。