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インピーダンス整合の大切さ:455KHzフィルターを例に。

下図は455KHzのセラミックフィルターCFS455Iのトラッキング特性を測定したスペアナ写真です。
トラッキングジェネレータ(TG)の出力インピーダンスは50Ω、スペアナの入力インピーダンスも50Ωです。左は
この設定でフィルター特性を計った写真、かなりのリプルが出ています。右はスミスチャートから50Ω→2000Ωに
インピーダンス変換するLCを挿入したときの特性です。

   

このようにフィルターの入出力ではインピーダンス整合をとらないと十分な性能を発揮できません。
HF帯においてインピーダンス整合が必要な部分は概略フィルター周辺とパワーアンプ部分だけです
フィルター部分はリニアーアンプとアンテナ間のSWRを気にするくらい注意が必要です。
下の左はセラミックフィルターCFS455Hの例で、TGの出力インピーダンス50Ωに抵抗50Ωを直列にして合計100Ωのインピーダンスで
フィルターに入り、 出力は100Ωの抵抗受け、これを影響を与えないようにスペアナの1メガΩの高入力インピーダンスで計測した特性です。
2000Ωのインピーダンスを前後100Ωで受ければ特性はこうなります。右は上の例と同じように整合した状態です。

   

具体的にはセラミックフィルターの入出力インピーダンス2000Ωをスミスチャートを使って50Ωにインピーダンス変換しします。
下図のごとくスミスチャート上で、Data Point に純抵抗で2000Ω、リアクタンス0、それに周波数455KHzを入力します。
次に並列にC挿入を選び下(南)半球のキャパシティブの方向に進み50Ωラインに合う所で止まります。
次にLをシリーズに挿入を選ぶと純抵抗50Ωのセンターにたどり着けます。難しく書くと「 2000+j 0」 →「 50-j 300」 →「 50+j 0」 となりますが
実際はソフトを使うことで、難しい計算をすることなくPCの画面上でゲーム感覚でインピーダンス変換ができます。
詳しいことを述べるのはこのページの本意ではありませんので興味のある方は
http://fritz.dellsperger.net/smith.html より「Smith ver4.1」をダウンロードして試してください(無料)。
(以前表示していたアドレスでは Not found となり download 出来ませんでした。上のアドレスから New version を使用願います。)

CとLだけで整合を取っていますが本来的には高周波領域で使う限りパイ型の両側にCでGNDにアースするタイプが理想的です。
紹介したスミスチャートソフトではこの変換も簡単にできます。

     

次に私の受信機にセットしている現用のフィルター群とその周辺回路を紹介します。
フィルター前後に入るデバイスは様々、例えばミクサーであったり中間周波アンプであったり IFT トランスであったり、
なかなかインピーダンスが定まりません。やはりバッファーアンプが必要です。高速オペアンプを使えばバッファー作用と同時に
インピーダンス整合もできます。左の実装写真、10KHzセラミックフィルター、3KHzメカフィル、6KHzメカフィルの写真です。

   

右の回路図面では、オペアンプの出力インピーダンスの低さ、入力インピーダンスの高さを利用して抵抗(ボリューム)による
インピーダンス変換を行います。1KΩ+1KΩVRになっていますが最良点を見つけるにはTGとスペアナがいります。
測れない方は1.8KΩくらいを付ければ問題ないと思います。(テスターで最終抵抗値を測定していないものですみません。)
フィルターの切り替えにダイオードスイッチを使わずリレーにしている理由は私のやり方がまずかったせいもあるのですが
作ってみた結果、入出力のアイソレーションが十分取れなかったからです。
トータルのオペアンプ自身のゲインは4倍ありますがその必要がなければ2つのオペアンプをボルテージフォロアにして使うか、または
現回路を活かすならトップのオペアンプの +入力に 4 KΩをシリーズに入れてR分割、入力電圧を1/4にしてください。

     

結果のデータ、左から10KHzセラミック、3KHzメカニカル、6KHzメカニカルの順です。オペアンプがバッファーとして前門・後門の仁王さま
ようにフィルターをしっかり守っていますから、入力や出力にどのような回路のインピーダンスが来ようとフィルターの特性に変化は起きません。

3.5、7 MHz バンドパスフィルターの製作

HF帯の送信機、受信機を製作する上で一番難渋するのがLCによるバンドパスフィルターではないでしょうか?低周波の音声信号から
始まり、バラモジで455KHz信号になります。バラモジもミクサーも同じ働きをして搬送波を中心として両側に被変調波が現れます。
バラモジの場合は被変調波は両側帯波としてLSBとUSBの形で現れます。接近した不要側帯波を切るときはクリスタルフィルターなどを
使うかPSN方式または第3の方式などを使わなければ実現できません。その後のミクサーでは不要側帯波の周波数がかなり離れている
ので通常はLCによるバンドパスフィルターを使います。例えば455KHzSSB信号を局発7555KHzと混合した場合下側に7100KHzのSSBが
上側に8010KHzのSSB信号が現れます。必要な7100KHzだけを取り出すため8010KHzのSSB、出来れば7555の搬送波そのものも除去
したいものです。終段のリニアーアンプに行くまでにさまざまな共振回路を経由するためそれほど神経質になる必要はありませんが
7100KHzのLSBで送信中、ローカル局から「おい、8010KHzのUSBで聞こえるぞ!」と言われないためにもしっかりしたBPFを作る必要が
あります。
下図は左に特性を計測中の基板、右にその回路を示しています。3.5と7MHzの切り替えはトグルスイッチで直接GNDしていますが
PICによる切り替えは この図面をご覧ください。

   

右上の図面上、FCZコイル2次側をインピーダンス変換として利用しています。
バンドパスフィルターを実現する手法はさまざまありますが経験上コイル数も少なく調整もやさしい「容量結合型」を紹介します。
理論は成書に譲るとして、実際の計算値の算出はエクセルファイルで計算できるようにしました。
下図、左にそのエクセルファイルの一部を右に3.5と7MHzで設計した理論値を示しています。

   

2バンドのBPFのバンドパス特性です。4次ではこれくらいのものでしょう。

   

LCバンドパスフィルター:
フィルターの性能をきちんと引き出すにはインピーダンス整合が大切なことを 455KHz メカフィルやセラミックフィルターの項で述べましたが
LCによるバンドパスフィルターもまたしかりです。
下の回路図は前述の通り以前からの設計と同じですがインピーダンス整合については何も述べていませんでした。そこで、
下に容量結合型バンドパスフィルターで設計したBPF(バンドパスフィルター)を入出力50Ωに変換するLC回路を追加しました。

 

図面にもありますが、FCZ 3.5MHz は一次側巻き数 20 二次側は 7 です。相互インダクタンスの影響で同じコアーに巻いた
コイルのインダクタンスは巻き数の2乗に比例するので一次側の 8.03uH は二次側ではインダクタンスは
8.03*(7/20)2=0.98uH 、インピーダンスも同様に 1200*(7/20)2=147Ωになります。

右のスミスチャートは最も簡単に 147Ωを 50Ωにインピーダンス変換する方法を示しています。(クリックすると拡大します)
無料のスミスチャートをダウンロードして試してみてください。方法は上から2段目の Keyboard に 147 と周波数 3.6MHz
を入れると水平線上に DP(147Ω) ポイントが現れます。あとは上2段目の右コラムの L や C を直列や並列に自由に選んで
イミタンスチャートの真ん中の 50Ω目掛けて作図するだけです。
理論的にあり得ない方向にカーソルを動かそうとしてもPCが受け付けてくれません(このような動作はしないと言う事です)。

この場合は並列に入れる C を選んで定コンダクタンス円に沿って 50Ωの定レジスタンス円にぶち当たる TP2(50-j69.3)
で一時ストップ、ここから直列に L を挿入して再び定レジスタンス円に沿ってしてチャートの真ん中 50Ω に向かいます。
ここが TP3(50+j0) でリアクタンスもサセプタンスもない純抵抗の 50Ω終端です。水平線から外れるとリアクタンスや
サセプタンスが残り S21 の伝達係数にも悪影響を及ぼします。(反射があればフィルターの特性にガタが来ます)

LTspiceでシミュレーションした回路が下に示しました。左は 421p のCを並列に受けて 3.1uH のLで 50Ωに
合わせる手順。右は 4.7uH のLで並列受けして 630p のC をシリーズで出力する回路です。
イミタンスチャートを利用すればいろいろな整合が出来る事が分ると思います。整合の仕方は L&C型であれπ型であれ自由にできます。
LTspiceの結果のグラフはそれぞれの出力で微妙に違いますが、差に意味はなく、誤差として解釈しています。
(設定したコイルや信号源などに設定する 0.1Ω 等の内部抵抗、あるいは他の影響かと思います。)

   

イミタンスチャートを使えばアンテナ回路の整合にも利できますが、このようなフィルター回路のインピーダンス整合にも使えます。
一通りの方法ではなく L から始まり C で終端したり、パイ型のもので整合したり、本当に
ゲーム感覚でインピーダンス変換できる優れたソフトです。次の図面に上の結果やπ型の整合器を導き出す方法を示しました。
π型でやるのが回り込み防止、その他の関連で安定した動作になります。何故かというと入出力端子にLのインダクタンスが
ぶら下がると高い周波数を拾いやすくなり、高周波に対する周辺インピーダンスが高くなるからです。
動作が不安定になったり、最悪発振を起こしたり色々と面倒が起こりやすくなります。
π型にして両端をCでアースすれば高周波に対しても周辺のインピーダンスが下がり、このような心配はなくなります。
面倒でもπ型のインピーダンス変換を勧めます。
最終的な回路の具体的数値はチャートの図中、右の上段にありますし、
途中の「 + j 」パートや「 -j 」パートを移動したポイントは右の中段に数値と共に表示されます。

   

さてFCZ3.5のBPFを長年使用して問題も無かったのですが、ジャンク箱に残っているFCZのコイル群から 9MHzと 28MHz を見つけた
ついでにと、容量結合型バンドパスフィルター設計で新しい3.6MHz帯と7.1MHz帯の BPF を製作したので紹介します。今回の場合は
FCZメーカーのデーターから合致しそうな回路インピーダンスは660Ωとなりました。3.5だから3.5MHzのコイルを使う必要は全くなく
あるもので設計して最終的にインピーダンス整合をすれば結果OKと思います。

   

実際の現実的回路は下のようです。前述したように3.6MHz帯用の FCZ9 は巻き数が一次 12t 二次は 4t ですので二次側インダクタンス
は 2.9*(4/12)2=0.32uH、インピーダンスは 660*(4/12)2=73.3Ω となります。
同様に FCZ28 を使用した 7.1MHz帯 BPF は 二次側インダクタンスは0.149uH、インピーダンスは 92.8Ωになります。このくらい50Ωに
近くになるとイミタンスチャートを使ってインピーダンス変換しなくても 3dB パッドを挿入するくらいで十分に所期のバンドパス特性を得られます。

入力側が二次側ではなく一次側の 660Ωのホットエンドに入力している理由は前段のミクサー SL6440C の出力インピーダンスが
数百Ωあるからで、この場合は入力を50Ωに落とす必要は全くありません。高周波領域は基本的には50Ω系で設計するものですが
そうならない場合も多々あり、諸兄も前後のデバイスのインピーダンスを測りながら臨機応変に考えてください。私の場合はジェネレータ
最終段のIC、モトローラ社のCA2832C (RF Module, 1.6W, 1-200MHz, 35dB, 28V, usable for 50-100 ohm systems)
にそのまま3.5MHzは 73Ωで、7MHzは 93Ωで橋渡しています。

ところで、LCでバンドパスフィルターを製作する場合の注意点があります。
@入出力にはフロートバラン(ソーターバラン、コモンモードフィルター)を入れる事。
A FCZの本体のアースベラは二か所ともアースを取る事。
この二点をきちんとすることで下の二つのデータに大きな差が出ています。ちょっとびっくりですが意義は大きいです。

B最終的な BPF の調整は本来挿入すべき部位に装着して上図のように回路に影響を与えない範囲で例えば1KΩを介して
ネットワークアナライザやトラジェネなどで微調を行うこと。前後の回路のインピーダンスの正確な数値は分らないことが多々あるので
50Ω系で測定してデスク上ではOKでも、本来の系に入れると思った特性が得られないことも多いです。

   

上:3.6MHz帯の BPF 左は@とAをしなかったデータ。右はフロートバランを入れアースもちゃんとしたデータです。 
フロートバランはアースラインをきちんと切り離し、アースを介した共通インピーダンスを防ぎ、BPF回路の独立性を保ちます。
下:7MHzでは影響はさらに顕著です。机の上の適当な材質での片手間実験では左のような特性しか得られないでしょう。

   

ユニバーサル基板に作成した実物のバンドパスフィルターです。データーはすべてこの基板からのものでした。
奥の列が FCZ28 の7M用、手前が FCZ9 の3.5M用です。みっともないですが裏面もお見せします。

   

余談ですが、この現用の BPF を ARRAY SOLUTION から販売されている「VNA 2180」で測定してみました。
ネットワークアナライザーとしての機能も付いていてスペアナにはないデータも取れて便利です。緑が S21_magnitude (所謂バンドパス特性)
紫は S21 phase (位相特性)です。水平軸を横切る周波数を読めば共振周波数がわかります。

   

最後に実装している 455KHz から 3.5-3.8MHz と 7.0-7.2MHz へのミクサー(SL6440C)とバンドパスフィルターそして CA2832C の写真です。