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PSNタイプでSSB信号ができるまで。

送信機の場合: 90度位相が保たれる限り数Hz(理論上1Hz)から数十KHzまでのSSB信号ができます。

SSBの発生 実用SSB

cosμt は音声などの低周波信号、-π/2 は90度位相、× はモジュレータ、Σは加算器と読み替えれば理解しやすいでしょう。
この二つの系統図はある海外論文から引用したものです。低周波メッセージ(音声信号)もキャリアー高周波も π/2 ずつ位相偏移
させればSSB信号となる原理図です。(QPS は quadrature phase spliter の略、直交位相偏移器とでも訳しましょうか?いずれにしても
直交なので90度位相がずれる装置を指します)
詳しくは下記文献を参照のこと。
出典:http://midas.herts.ac.uk/helpsheets/tims/TIMS%20Experiment%20Manuals/Student_Text/Vol-A1/a1-07.pdf

しかし、このままでは何のことか解りにくいので具体的回路図面と注釈を加えました。

送信機

90度だけでなく、-90度(-π/2)、270度(3*π/2)、でも二つの信号の位相差は90度となり直交関係になり結果は同じです。
実際の製作時に出力のSSBが LSB なのか USB なのか分からないときはバラモジに入る低周波信号を入れ替えれば
目的のサイドバンドが得られます。勿論90度位相差を持ったキャリアー信号を入れ替えても同じ結果です。
さて、90度位相差をもった単一周波数の搬送波(例えば455KHz)を作ることは比較的容易なことですが、
20Hz〜10KHz程度の広範囲に渡る低周波信号のどの周波数でも90度位相差を得ることは大変困難な作業になります。
前述の原著にも 「A network providing a constant 90° phase shift over this frequency range is very difficult to design.」とあります。
(愚訳:広範囲の周波数で90度位相差を一定に保つ位相ネットワークをデザインするのは至難の業です。)

では原著に言うQPS、別名ヒルベルト変換器(Hilbert transformer)、あるいは一般的に言う広範囲オーディオPSN、または
オールパスフィルターはどういう回路で実現できるのか?
(オールパスという意味は位相は変化させても振幅は何Hzの信号でも全て通すという意味です。)
次の図は HAMSTOOL という私のソフトウェアーで算出した6段のオペアンプ列、RとCで構成される6段の位相変換列です。

6段PSN

これら上下二つのオペアンプラインの位相特性は

位相曲線

ちょっと見にくいですが 横軸1Hz〜100KHz で、赤が上列オペアンプの、青が下列オペアンプの位相曲線です。
10Hz から 10KHz 付近まで二つの位相曲線の位相差は90°を保っています。(単純に上の曲線から下の曲線を引いたグラフです)

書き換えて90度近辺を拡大した、正確な位相差のグラフは下図のとおりになります。
6段350Hz
位相誤差は20Hzから8KHzまで0.1度以内、SSB逆サプレッションで言うと-60dBに抑えている特性が得られます。
【注】クリスタルフィルターの特性によく出てくるような振幅特性ではありません。これは位相特性です、誤解のないように。

シミュレータで実際の回路とその特性を2例表示しておきます。最初は6段の60dB設計のAFPSNです。
抵抗は全て10KΩにしています。現実にはCの値はバラバラですからまずCの値を測定し対応するRの値を決めます。
「HAMSTOOL」のAFPSN設計から「TO R&C tabele」に進むとエクセル様の表計算が出ますから、対応するCのセルを
クリックしてCの値を入力すると自動的にRの値を計算してくれます。


8段70dB設計のPSNです。Rは10KΩですが「HAMSTOOL」でCの値を先に決めて、それに対応するRの値を決めて下さい。



 少ない段数のオーディオPSN

4段のPSNの2例を示します。左の図面の特性が右のグラフです。グラフはクリックすると拡大します。
グラフの縦軸はHAMSTOOLのグラフとほぼ同じスケールですから比較できるとおもいます。
やや広範囲に設計した1つ目の回路でも55dBのサプレッションを得る範囲は50Hz〜3.5KHzくらいでしょうか?
60dBを期待すると2つ目の回路になりますが使用できるのは80Hzからぎりぎり3KHzでしょう。
理論通りに理想的に作成したという前提ですから現実には6段以下で満足する結果を得るのは難しいと思います。

 4段の少ない段数のAFPSN  4段の位相特性
   

フィルターと AFPSN を組み合わせたハイブリッドタイプ用オールパスフィルター

高周波フィルターとオーディオ帯域のオールパス、ヒルベルト変換フィルターを併用して、所謂ハイブリッドタイプのSSBを発生させる場合
音声の高域や中域は高周波フィルターで逆サイドを切ってくれます。音声の低域は高周波フィルターのみではカバー出来ないので
その部分をPSNで逆サイドが出ないように補助してやります。フィルター + PSN で少々複雑なシステムになりますが、高周波フィルターの
シャープな切れで低周波においてローパスフィルターを設定する必要が無くなるのは一つのメリットです。
下にこの目的のためのフィルターの特性を示します。20Hz〜450Hzまで90度 + - 0.1度(サイドバンドサプレッション -70dB以内)
に収まっています。下に4段のものを提示します。(05/18/2020)

 

上の特性を得るための回路です。シミュレーション上便利の為、コンデンサーは一律 100nF にしています。

もう一種類、3段のハイブリッド用オールパスフィルターを提示します。
20Hz〜150Hzで位相誤差は 0.1dB 以内、サイドバンドサプレッション-70dBが得られます。
バラモジ後に入るクリスタルフィルター(またはメカニカルフィルター)のシェープファクターが「1」に近く、切れが良ければ、
キャリアーポイントをほんの少し(100Hz程度)だけフィルター帯域内に移動すれば逆サイドもちゃんと切れた重低音も
よく効いたSSB信号を発生出来ます。

コンデンサーを 100nF(0.1uF)で シミュレーションした回路です。90度位相が変わる周波数は f=1/(2×π×R×C) で表せます。
例えば3段PSNの上段1列目の、82.626KΩと100nF の90度回転周波数は 「19.26Hz」 になります。

1

現実的にはコンデンサーを測定して、それに合わせる抵抗値を設定するのが通常の方法です。エクセルでこの方法が出来るように
それぞれ(4段と3段)の計算式を作りました。その計算表の一部を表示します。

上のエクセルファイルをつかえるように zip ファイルにしてアップロードしておきます。「Excel_for_Hybrid_PSN」(クリックしてダウンロード)

PSNタイプ受信機で音声信号ができるまで。

受信機の場合:現実的には周波数特性は受信機フィルターの帯域幅に依存します。

SSB検波

受信機の場合は送信機の逆の経路で、90度位相差をもつ搬送波で検波し、オーディオ信号に変換してからオールパスフィルター
(広範囲オーディオPSN)を通し、2経路の信号を加算または減算し、USBとLSBを分離します。
受信の場合はこの加算と減算を同時に行い USB LSB の両サイドバンドを同時に聴けます。
つまりは送信側でISB ステレオ信号を出せばこの方式のPSN受信でステレオが聴けるということです。

具体的に表示すると
受信機

加算器・減算器

加算器(左の addition)と減算器(右の subtraction 2種類)は下図のような回路で実現できます。減算器は+-入力に同時に信号を入れて
差を取る方法(case1)と、いったん180度位相をずらしてから加算を加える方法(case2)があります。
いずれにせよ逆サイド側が聞こえなくなるように、ボリュームを調整します。
受信機回路の場合は、AF-PSNの出口に加算器と減算器を同時につなげば LSB USB が分かれて聞こえ、ステレオになります。
(送信機をステレオにするにはLSBとUSBの両方の信号を作ってから加算することになるためバラモジまで2系統作ることになります。
一般的には455KHzでLSBとUSB信号をつくり、受信機の場合と同じように加算してISB信号を作ります。
高周波領域という違いだけでやはり加算回路です。スルーレートの高い、高速オペアンプで実現出来ます。)

加算器、減算器

PSN設計ソフトフェアー

HAMSTOOL(PSN設計ソフトの他にオペアンプによるローパス、ハイパスフィルターの設計ツールも入っています)。

広範囲の低周波PSNを設計するソフトです。左側が起動画面。メニューから WIDE RANGE AF PSN を選択すると
右の画面、7段で70dBサプレッションのデータがデフォルトとして表示されます。設計段数は6段から10段まで、
希望サプレッションは60dBから80dBまで変えられます。またセンター周波数を変更して低域のサプレッションを重視したり高域の
サプレッションを伸ばしたり自由に設計できます。下部にある3つのメニュー (Click here and read first , Transmitter Sample Circuit ,
Receiver Sample Circuit)では HAMSTOOL を動作させるための注意、送信機および受信機の基本的な回路図面が表示されます。
この画面で具体的な作製方法などのメニューが現れます。

初期画面   7段PSN

位相特性が目的に合っていれば、メニューの「TO R&C table」 をクリックすると、10KΩをデフォルトとしたCの値がナノファラッド
単位で表示されます(下、左の図)。手元にあるコンデンサーの値をCメータなどで測定しInput 枠内に入力すれば対応したRの値
が計算されます(下の方、エクセルに似たような図、左から 3列目まで実例として表示。あとはデフォルト10KΩのまま)。
【エラー処理について】
もし、上の 「位相曲線」 画面から下の 「R&C画面」 に移行するときに error が出る場合(Windows 7,8などで)は
http://www.vector.co.jp/soft/win95/util/se342080.html にアクセスしてにアクセスして Visual Basic 6.0 SP6 ランタイムライブラリ
をインストールしてください。
<Visual Basic 6.0 SP6 のランタイムライブラリーへのアクセスはここをクリックしてもできます。>

 初期RC 設定されたRC 

★ここからフリーの HAMSTOOL ver5.1 のダウンロードができます。(Hamstool_ver_5_1.zip)★
解凍して起動してください。趣味として個人的に使用する分には制限はありません。

RF PSN について

通常の場合、搬送波周波数は455KHzなど単一の波長なので一点のみ90度位相差をつくればいいので比較的
単純な方法で実現できます。ダイレクトコンバージョンタイプの場合は位相偏移を作るべき搬送波がバンド幅
全体に変化する(周波数が変化する)ため、74HC74などを利用するか、周波数は同一で90度位相差をもった2台のDDS発振機
を製作するかして、周波数が変わっても90度位相が保たれなければいけません。
他、アナログ的な手法の3種類も示します。詳細は製作のページをご覧ください。(値は3種とも455KHzPSNとして計算しています。)

トランジスターRFPSN OPEアンプRFPSN
7474RFPSN コイルを利用したRFPSN from HAMSTOOL