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AD603という IF/RF AGC アンプ。

アナログデバイスが開発した低ひずみのAGCアンプです。データシートの2トーン波形をみると嫌が上でも挑戦してみたくなります。
下図右の455KHzのデータでは入力 0dBm(633mV p-p)でゲイン 0dB で3次ひずみは約 -80dB。本当かな、と思うくらい魅力的です。

   

このICの機能を表すブロックダイアグラムです。制御電圧によりラダー構造の抵抗群を瞬時にコントロールして 出力を調整する仕組みです。
詳しくは http://www.analog.com/static/imported-files/data_sheets/AD603.pdf を参照してください。

下図中央のVg-GAIN相関表で、1番(GPOS)と2番(GNEG)の間の電圧で1つの AD603 あたり40dBのコントロールができることを表します。
オリジナルグラフの電位差変化は0.6Vから-0.4Vの約1Vですが、GPOSを1Vに固定してGNEGを0Vから変化させる場合(赤色の電圧で表示)
GNEGの2番ピンも 1V で電位差が無い場合は-10dBの減衰アンプとして、GNEGの2番が0V、つまり1番に対して1V低ければ +30dBの
増幅アンプとして働き、オールオーバーで-10〜30dBの40dBのゲインコントロールができるAGCアンプになることを示しています。
送信機のIF段のゲインコントロールには603の1段アンプで十分な働きとなるでしょうが受信機の場合
100dB近くの広い範囲をカバーしなければいけません。このために下図の右のように2個をカスケード接続して1段目、2段目
で閾値(threshold)ポイントに差をつけて Sequential Control (直列接続コントロール、とでも訳しますか?)で80dBの信号変化を
コントロールするというものです。

     

下図左、データブックでは2番の VNEG を0.473V と 1.526Vに固定して1番の VPOSを制御してゲインコントロールをしています。
私のやり方は逆に1番ピンを1V、2Vに固定して、2番ピンのVNEGに0〜プラス電圧をかける方法をとっています。
(1番ピンを0.6Vの定電圧にする必要はないし、もしそうするなら2番ピンには -0.4V から出力するAGC電圧が必要になります。)
メーカー推奨のテスト回路を参考のため右下に示します。

   

現用受信機に収まったAD603が2個の中間周波アンプ。120pのトリマーコンデンサーと220uHのRFCは
455KHzの直列共振回路を構成しています。

現用の回路図面です。AD603の5-7ピンは短絡してアンプのゲインは30dBとして使用します。
初段の603のGPOSには2Vを次段には1Vの定電圧をかけそれぞれの2番のVNEGをAGC電圧でコントロールします。

 AGC電圧  0V   0.5V   1.0V   1.5V   2V  
 1段目 VG   2V   1.5V   1.0V   0.5V   0
 1段目ゲイン  30dB  30dB  +30dB  +10dB  -10dB
 2段目 VG  1V  0.5V  0V  -0.5V  -1V
 2段目ゲイン  30dB  10dB  -10dB  -10dB  -10dB
 トータルゲイン  60dB  40dB  20dB  0dB  -20dB

455KHz入力がゼロのときはダイオードで整流されたAGC電圧は0ボルト、従って初段の603は1-2ピン間で2Vの電位差がありフルゲインの
30dB(ATT=0dB, AMP=30dB)。2段目603も1Vの電位差で30dB(ATT=0dB, AMP=30dB)、計60dBの増幅アンプになります。
455KHz信号が強く、AGC電圧として1V出たときには初段はまだ1Vの電位差があり30dBの増幅アンプとして働きますが次の603では
電位差がなくなりゲイン-10dB(ATT=-40dB, AMP=30dB)のアンプとして、計20dBの増幅アンプ。
AGCが2Vでたときは初段は1-2番の電位差0で-10dB(ATT=-40dB, AMP=30dB)、
次段は-1V(1番より2番が高い)で-10dB(ATT=-40dB, AMP=30dB)で、合計では-20dB。
つまりAGC電圧0-2Vに対して60dB〜 -20dBの範囲、80dB変化するAGCアンプとして対応しています。
ポイントはGPOS-GNEG 間のオフセット電圧の変化を 1V 確保するのを忘れないことです。

VI(電圧-電流)変換アンプは入力電圧が2Vのときメータの内部抵抗にかかわらず1mA流れフルスケールになります。
メータの上についている2SC1815はメーターを過電流から保護する回路です。ダイオードを付けても同じです。
ダイオードの前にある 1KΩボリュームはSGからANT端子に40dBuを入力しメーター指示がS=9になるように調整してください。
AGCの時定数を決めている770uHのあとの、10uと1MΩは好みにより変更ねがいます。この定数で「ややSLOW」という感じで受信できます。

ファイナルからのマイナス電位をIF段に戻して制御する送信機AGCシステム

前項で述べたように AD603 は1V変化で 40dB のゲインコントロールが出来る
ICです。送信機ではオーディオ段で既にリミッティングアンプが入っていることも多く
AD603をカスケードに繋いで大きなゲインコントロールをする必要もなく、せいぜい
40dB の制限性能で十分だと思われます。
送信機の AGC system は送信管の場合はマイナス数十ボルトの電位が戻ってくる
ことも多く AD603 のような 1V のコントロール電圧の変化で十分な場合はちょっとした
工夫が必要です。
AB1クラスのアンプの場合第1グリッドにわずかな電流が流れただけで -100V ほど
の電位が返って来ます。TRを使用した所謂増幅型ALCの場合です。
オーディオ領域でのようにアタックの遅れのないようにと200Ωクラスで
受けたりすると瞬時の大音に途端に AD603 がお陀仏になり、当分電波が出なく
なります。私の場合は5極管の増幅型ALC(ひとつ下の図)なので図面のように1MΩ
で戻しています。AD603 のゲインコントロール回路はインピーダンスが 50MΩもあるということなので基準電位を供給する抵抗も 1M を
2個シリーズに繋いでいます。

左が所謂増幅型ALCと言われる回路です。TRにはブレイクダウン電圧が
BVceo=300V の2SC4015 を使用しています。
ALC電圧を受ける制限増幅回路の電源電圧は 9V の片電源を使用しています。
受信機のときのように + - 5V にしても良かったのですが都合により VNEG
はアースに落としCOMM は 9V の中間電位 4.5V を与えています。
(7809の GND にダイオードがくっついていますが入力ミスです。そのまま GND )
この基板に + - 12V は来ているのですが AD603 の電源の最大定格が + - 7.5V
なので、結果こうなりました。
さてコントロール電位の操作方法ですが、この度はGNEG を固定化して GPOS
を増減させて 40dB のゲインコントロールをさせています。GPOSを固定した受信機のときの逆の発想です。固定化されている
GNEG (2番PIN)は 5.1K と 4.3K で抵抗分割されているので約 4.12Vが掛かっています。
フルゲインにするときは 1番PINのGPOS を 5.12V にすればいい訳で、9V に繋がっている 1KΩボリュームを調整します。
このときの電位差は1Vで増幅率は 30dB です。
ファイナルからのマイナス電位が加われば 5.12V は 4V に向かって減少し、GPOSとGNEG間の電位差が無くなり同電位になれば
-10dBの減衰アンプになります。しかしこれらの前提はパワーアンプからのALCラインインピーダンスが高く、結線しても GPOS の電位が
変わらない、直流的にはアースから浮いているという条件が必要です。(2MΩを介して供給している5.12VですからALCラインの
数百KΩでさえアースに落とせば GPOS の電圧は最初からドロップします。)

2SC4015 のコレクターには送信管の第1グリッドに電流が流れない限り、
電流が流れる要素はありません。従ってALCの入力回路はインピーダンスが無限大
とも言えます。リニアーアンプからのALC回路を接続しても GPOS の5.12Vに変化は
ありません。しかしトランジスタアンプのALC回路では数十KΩの抵抗がアース間に
ぶら下がっていたり、ALC回路を接続しただけで GPOS の電圧が下がってしまう
ことがあります。何らかの抵抗値がALCラインとアース間に存在するようなら
真空管の AB1 動作において、TRを利用した増幅型ALC回路のようにはうまく設定
できません。
左の図はこの問題を解決する方法です。OPEアンプの反転増幅を利用して、ALC電圧が
マイナスに振れるときは出力ではプラスに振れるように変換します。この電位を利用して
NPN トランジスタのベースを叩き GPOS の5.12Vの電圧をアースに流し込み電位
を下げる方法です。このようにOPEアンプと NPN トランジスタで構成される、所謂
バッファーアンプを挿入することでマイナス電位が生じるALCであればどのような形式のものでも対応できるようになります。
OPEアンプのフィードバック回路にあるVRの 5KΩは主にALCゲイン調整に使いますが、これでALCの閾値を決める手段にも使えます。
2SC1815 のベースに入っている 1K 1K の抵抗分割に関してはオペアンプの出力電圧の 1/2 がTRのベースに掛かっていますから、
OPEアンプ出力が1.4Vになった段階で2SC1815 のコレクターが流れ始め AD603 のゲインが落ち始めます。
TRはベース-エミッター間の電圧差が 0.7V 以上になるとコレクター電流が流れ始めますから、
オペアンプのフィードバックVRで閾値(threshold)を決めてもいいし、TRのベースの抵抗分割をVRに変えて閾値の設定に使ってもOKです。

述べてきたように、 新たに AGC system を追加する場合、最大30dBもゲインを追加するアンプを設置するわけなので、
必要が無い場合は出力端に VR またはアッテネータを挿入し出力を絞ります。ゲインが増えるのは嫌だと GPOS-GNEG 間の電位差を
少なくするとゲインは減少しますが、その分ゲインコントロールの範囲が狭くなります。これではALCアンプの意味が無くなります。
PNPトランジスタにLEDをくっつけてファイナルからのマイナスの戻りがあればLEDが光るようになっています。
トランジスタアンプのALCでは -100V というような高電圧ではないでしょうし、この場合は入り口の抵抗を1MΩではなく 10KΩとか、
カット&トライで決めて下さい。
制御の流れは 9V に繋いだ VR から 2MΩを介して供給された 5.12V がマイナス電位の送信機 ALC側に引っ張り込まれる形で
減少します。この場合、送信管の第1グリッドに電流が流れ始めるポイントが THRESHOLD (閾値) となります。
AB1アンプの場合は第1グリッドに電流が流れた瞬間がALC発生のタイミングなので、それまでは一切ALCは効いていません。
トランジスタやFETアンプでのALCではパワーのどのタイミングでマイナス電位のALCを発生させるかは各自お考えになり
セットアップしてください。
なお今回は2011年に製作したISBジェネレーターの回路の中で、未だアップロードしていない部分を古い実験ノートから抜粋して
記載しました。古い記憶と古いノートに頼って記載している事情から間違った部分もあるかも知れませんがご容赦ください。
(多分大丈夫と思いますが、、。 2021/April/10)